麺屋さんに聞く「岡山のラーメン」! |
老舗で、そして新進の麺屋さん |
岡山市で麺屋さん(製麺所)といえばまず「冨士麺ず工房(旧冨士麺業)」の名があがります。このHPを始めた頃ラーメン好きのある人が「ラーメン屋に入って『冨士製麺』の木(プラスチック)の箱があったらまず安心して食べられる。」と言ったのを聞いて「ふ~ん」と思ったものでしたが、「中細ストレート」と形容される冨士麺は、戦後の岡山のラーメン発展に大きな役割を果たしてきた麺屋さんんの一つのようなんです。
岡山駅西口から西へ1キロあまり、新幹線側道を野田地下道の少し手前まで行くと、左側にその建物はありました。「冨士麺ず工房」という名に負けないモダンな建物です。
「やあいらっしゃい。ホームページはよく見せてもらっていますよ。」あ、有り難うございます。
「うちは生中華めん専門なんですが、岡山でもこういう業者は珍しいんですよ。」
戦後すぐ製麺をはじめた先代を継いだというその人は、労働省(現厚生労働省)の一級製麺技能士の資格をもつ、新進の麺屋さんでした。同じ技術者としての親近感か、なんだか話がはずみ、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
ラーメンの麺とは?うどんとの違いは? |
ラーメン食べ歩きをしながら、ラーメンの基礎知識のほとんどない私。まずは「ラーメンとうどんっていったい何が違うのですか?」なんて幼稚な質問から始めてしまいました。
以下、3分でわかるラーメン基礎講座です。
「まず、粉がちがいますね。同じ小麦粉なんですが、ラーメンは準強力粉を使います。強力粉はパン、うどんは中力粉です。薄力粉は御存じのようにてんぷら粉です。」
「これはグルテン(ねばり成分)の含有量や小麦の種類などで分けられています。グルテンが一番多いのが強力粉、少ないのが薄力粉です。強力粉でてんぷらを揚げたら真っ黒になりますよ。」
ふ~ん。そうなんだ。そういえばたまに私がてんぷらを揚げる時の袋には「薄力粉」と書いてあったようにも思います。
「もう一つ、ラーメンには「かんすい」というものを使います。これはカリウムが主原料で、他にいろいろなものが入っています。グルテンに作用し弾力性のあるゴム状の性質にかえます。ちょっと黄色になったり、独特の歯触りがでたり、中華めん独特の風味がでてくるんですね。」
「まず、小麦粉にかんすいや塩などを溶かした水(ねり水)を30%程度加えて練るんです。」
「この%を加水率といいまして、地方によってかなり違います。博多麺が一番少なくて、24~28%程度、札幌で33~38%程度のようです。これは業者さんによっても違いますし、季節や気温、湿度によっても微妙に変えなければ同じものは出来ないんですね。」
う~ん。こんなところは企業秘密といいますか、それぞれのところの職人さんの経験に裏打ちされたものなんでしょうね。
細めでとつるつる感のある麺を! |
「この製麺技能士というのは昭和60年に始まったのですが、私は経験や勘も大事だけど、製麺の理論も学びたいと思って勉強して、第一回で合格したんです。当時県下で5人でしたね。」「冨士麺ず工房」社長、波多さんのお話が続きます。
「粉の種類の見分け方とか、そんな試験もあったんです。デンプンと小麦粉の違いはすぐ分かりますが、小麦粉の種類などは、触ってもなめても、なかなかわかりにくいですね。水を加えて練ってみるとあきらかにわかるんですけど。」
う~~ん。
「以前は20番が多かったようですが、今は22番の細めんが次第に主流になってきているようです。」
えっ、22番って何です???
「あ、30mmの切刃の中に何本麺を通すかということなんです。数字の多いほど細い。番手としては16番から24~26番くらいまであります。」
あとで貸していただいた日清製粉の「めん講座テキスト」によりますと、この切刃はJIS規格で決まっていて、角刃、丸刃、薄刃などがあり、博多ラーメンは24~30、サッポロは18~22、喜多方は12~14番などを使っているそうです。あとで製麺機を見せてもらいましたが、切刃はたくさんの溝が切り込まれた丸いローラーが2つ回って、その間から麺が出てくる仕組みのようでした。
「ローラーに当たっている部分が多いほうが喉越しが良いと思うんです。それでうちは少し平らな面にしています。細めでツルツル感のある麺を目標にしています。」
う~ん。加水率に番手、やはりなかなか複雑です。でもそれが美味しいラーメンを決めるのでしょう。
標準的な中華麺の製造工程
ミキシング | → | 複合 | → | 熟成 | → | 圧延 | → | 調量・切り出し | → | 熟成 | → | 包装 | → |
15~20分、練る | → | 2枚がロールで合わせられる | → | 麺帯熟成、60分程度 | → | 引き延ばされる | → | 切刃#16~20 | → | めん線熟成。15~17時間 | → | → | |
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ねり水で練られる | 上から入り、2枚に合わさって出てくる | 寝かせたのち圧延される | 最後に切り出す切り刃 |
戦後の岡山ラーメンの歴史を少し。「すわき」のことも |
“今、何軒くらい麺を入れておられます?”
「そうですね、小さいところもあわせると、100軒くらいになります。生麺ではうちはわりと多いほうでしょうね。」
お、驚きました。100軒とは。で冨士製麺さんの歴史を少しお伺いしました。
「おやじが戦争から復員してきて、番町の佐々木製麺さんや表町の一元(西村)のおやじさんなどと最初は一緒に製麺をやっとったようです。でもそのうちみんな独立しまして、昭和22年2月創業ということになっています。」
「あの冨士屋さんは脱サラされて食堂をやっておられたのですが、うちの親父がすすめて、浅月さんの一年くらいあとからラーメンをされたと聞いています。」
「百万元さんも先日までやっておられた見垣さんになってから、私ところの麺を使っていただいていました。」
「そうそう、すわきさん。タンス屋の店にスペースが出来たということで相談があり、天満屋前の地下で開店した当3年くらいはうちが全部(麺を)納入していましたね。当時は一日に千食くらい出ていたんですよ。朝700持っていって、昼にまた700も持っていったなんてことを覚えています。」
す、すごい!!。”伝説の味”になるわけですね。
マイラーメンを見つけてほしい |
では最後に岡山のラーメン好きに何か一言。
「私も10数年前に、県下のラーメン屋さんをほとんど全部一通り回ったことがありました。今はやや濃い目のこってり味が若い人たちの間では流行っているようですね。でも、自分で食べて自分の好みのラーメン屋さんを見つけてほしいですね。マイラーメンを見つけることだと思います。」
「条件を定義つけるとすれば
1、 初めての店では一番シンプルなメニューを食べる。
2、 香辛料などをいれず、そのまま食べる。
3、 なるべく急いで食べる。(時間が経てば経つほどまずくなる)
4、 味の変化は店のせいばかりではない。体調による変化もあり。
5、 おいしいと評判の店には、1度ならず2度は足を運んでみること。
6、 味の好みは人それぞれ。自分の舌で判断すること。
などがいいのではないかと思います。」
長い間どうもありがとうございました。(2001、12)